投稿

3月, 2023の投稿を表示しています

マルコ14:10-21「いのちの引き渡し」

  序 今日の箇所は、いわゆる最後の晩餐の直前の場面を描いています。ここで一際目を引くのは、イスカリオテのユダの裏切りの企てです。 14 章の冒頭には祭司長たちと律法学者たちはイエスを殺すための良い方法を探していたとありましたけれども、彼らは今日のところで最高の協力者を得ました。時期はちょうど過越の祭りというユダヤで一番大事なお祭りの真っ最中でしたから、民衆から慕われている人気者のイエスを大勢の人がいるところで捕らえるわけにはいきません。そこで、イエスの一番近くにいる弟子をスパイとして送り込んで、イエスが人目につかないところにいくタイミングを伺い、そこでイエスを捕えるという方法をとることにしました。そのスパイの役を買って出たのがイスカリオテのユダです。ユダがなぜイエスさまを裏切ることになったのか、マルコの福音書はその理由を記していません。何らかの理由でイエスさまに失望していたのかもしれませんし、お金に目が眩んでいたのかもしれません。詳しいことは何も分かりませんけれども、ユダは神の子イエス・キリストを裏切るという大きな罪を犯してしまった。それは否定しようのない事実です。   大罪人ユダ? このユダは十二弟子の中でも一際目立つ存在ですので、ユダにまつわる物語は歴史の中で多く生み出されてきました。その中で最も有名なものの中に、イタリア文学最大の詩人と言われるダンテ・アルギエーリという人が書いた「神曲」という作品があります。この作品は「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」という三つのパートからなっていまして、ダンテ自身が主人公として、地獄、煉獄、天国を順番に旅していくという話です。その中でユダはどこに出てくるかと言いますと、やはり地獄篇です。ダンテが描く地獄は九つの層に分かれていまして、罪が軽い人から順番に一層目、二層目と降っていくのですが、ユダはどこにいるのかと言いますと、一番下の九層目です。そこにはルシファーと呼ばれるサタンもいて、そのルシファーがイエスを裏切ったユダと、カエサルを裏切ったブルータスとカッシウス、この 3 人を口で噛み締めしているという様子が描かれています。あらゆる罪の中で裏切りが一番重い罪だという理解です。ユダはそこで、歴史上最も重い罪を犯した人物の一人とされている。もちろんこの作品はダンテの空想に基づいていますから、聖書にはそのようなことは一切書かれていませ

マルコ14:1-9「奉仕の価値」

  序 「 まことに、あなたがたに言います。世界中どこでも、福音が宣べ伝えられるところでは、この人がしたことも、この人の記念として語られます 」。今日この場所でもまさにこのイエスさまのことばは実現しています。今日の箇所に出てくる女性の名前を私たちは知りません。名前だけでなく、社会的地位も、生い立ちも、なぜこの場所にいるのかも分かりません。完全に無名の女性です。しかし、その無名の女性の行ったことがイエスさまの目に留まり、福音書に記され、今や全世界に、東の果ての日本にさえ、彼女のしたことが伝えられている。不思議で、驚くべきことです。   女性の行動と人々の非難 改めて、今日の箇所を冒頭から見ていきましょう。 1-2 節は祭司長たちと律法学者たちの企みについて記しています。いよいよイエスさまの身に危険が迫っている。十字架がもう目の前に来ている。切迫感があります。 そんな中、イエスさまはエルサレム近くのベタニアという場所で、シモンという人の家で食事をしていました。すると、ある女性が「 純粋で非常に高価なナルド油の入った小さな壺を持って来て、その壺を割り、イエスの頭に注いだ 」とあります。このナルド油というのは非常に香りの強い香油です。インドのヒマラヤの方でよくとれる植物を加工したものだそうで、実は今私の手元にあるこの小瓶の中に入っているものがそうです。昔イスラエルに行った際に、いつかこの箇所から説教をするときに使えるかなと思って買っておいたもので、今回初めて役に立っています。関心のある方には礼拝後にお貸ししたいと思いますが、やはりとても強い香りです。蓋を開けて部屋に置いておくとすぐにその香りでいっぱいになります。そしてやはりとても高価なもので、この女性がもっていた量だと三百デナリ以上、日本円に換算すると 300 万円以上の価値があったと書いてあります。その非常に高価なナルド油を、この女性はイエスさまの頭に注いだのです。部屋はあっという間にナルド油の香りでいっぱいになったことでしょう。 すると、その場にいた者たちの何人かが批判を始めます。「 何のために、香油をこんなにも無駄にしたのか。この香油なら、三百デナリ以上に売れて、貧しい人たちに施しができたのに 」。正論です。その場にいたほとんどの人は「そうだそうだ!」と思ったことでしょう。一体この女性は何をしているのか?意味が分から

ローマ10:9-11「信じ、告白する」(使徒信条 No.1)

  序 先週の午後には教会総会が行われ、そこで 2023 年度の年間目標と年間聖句が承認されました。早速週報の表に掲載されていますので、はじめにみなさんで確認しましょう。まずは年間聖句です。「 なぜなら、もしあなたの口でイエスを主と告白し、あなたの心で神はイエスを死者の中からよみがえらせたと信じるなら、あなたは救われるからです。人は心に信じて義と認められ、口で告白して救われるからです。 」(ローマ人への手紙 10 章 9-10 節)この箇所から、「信仰告白に生きる教会」という目標を立てました。そして毎月第一主日には、私たちが毎月聖餐礼拝のたびに告白している使徒信条に関連するみことばにともに聴いていきます。今日はその第一回目ということで、年間聖句そのものを中心に、そもそも信仰告白とは何なのかということについて、みことばから教えられていきましょう。   使徒信条とは まず、これから 1 年間をかけて学んでいく使徒信条とは何かについて、基本的な事柄を確認しておきたいと思います。まずは名称についてですが、「信条」とは、「信じる条項」と書くように、教会の信仰の内容をことばで言い表したものです。使徒信条は元々ラテン語で言い伝えられてきたものですが、そのラテン語で「信条」は  “symbolum”  と呼ばれます。英語の「シンボル」のもとになっていることばです。信条とは、教会の「シンボル」である。その群れが真のキリストの教会であることの目印、旗印。それが信条だということです。 では、なぜ使徒信条は「使徒」信条と呼ばれるのか。それは、この信条で言い表されている信仰の内容が、新約聖書の使徒たちの教えに基づくものだからです。実際にヨーロッパの方では、 5 世紀以降のことですが、この使徒信条というのは使徒たちが一人一言ずつ文言を紡ぎ出して作り出された信条なのだという伝説が出てくるようになります。まずはペテロが「わたしは全能の父なる神を信じます」と言い、次に弟アンデレが「その独り子、イエス・キリストを」と言い、次にゼベダイの子ヤコブが「彼は聖霊と処女マリアから生まれた」と言い、というように、使徒たちが順番に一言ずつ加えていき、使徒信条が出来上がったという伝説です。これはあくまでも伝説で、実際にはこの信条の原型は 4 世紀頃のローマで誕生したと言われていますが、それがなぜ世界中に広まっていっ